新しい靴を買うとき、僕はいつも「履きやすさ」を基準にしていた。
足を締め付けない、柔らかい、ゆったりしている。そういう靴を選ぶと、履いた瞬間は「これは楽だ」と感じる。ところがしばらく歩いてみると、なんとなく足がくたびれている。長い距離を歩いた翌日には、ふくらはぎや股関節にじんわりと疲れが残っていることもある。
最近、それがなぜなのかを、身をもって確かめる機会があった。
理学療法士として20年、のべ40,000人以上の方々の身体と向き合ってきた中で、「歩き方」のご相談は特に多い。「すぐ疲れる」「膝が痛い」「腰に来る」。でもその原因の一つが、靴にあるとは思っていない方が多いのだ。
最近、2種類の靴を交互に履き比べてみた。一つはメッシュ素材のスポーティなもの。通気性がよく、軽くて、素足に近い感覚がある。もう一つは、いわゆるスニーカータイプ。どちらも足のサイズに合わせて選んだもので、履いた感覚も悪くない。
ところが、実際に歩き始めると、差が出た。
メッシュタイプは、足が靴の中でわずかにずれる。踏み出すたびに、靴に「乗り遅れている」ような感覚がある。ぐらぐらとまでは言えないが、足と靴が別々に動いているような、微妙な不一致がある。スニーカータイプは、足の甲がしっかりと包まれている。踏み出すたびに、靴と足が一緒に動く。歩幅が安定している。
同じ距離を歩いて、疲労感がはっきり違った。
なぜそうなるのか。専門家として整理すると、3つの理由がある。
1. 足と靴が一体化しないと、体幹の筋肉が余分に働く
靴の中で足がわずかにずれると、身体はそのたびにバランスを取り直そうとする。その微細な調整作業が、蓄積すると「疲れ」になる。太ももや腰に余計な負担がかかることも多い。
2. ホールド感は「締め付け」とは違う
多くの人が誤解しているのが、「ホールド感=きつい」という思い込みだ。適切にフィットした靴は、足の甲と踵をしっかり包んでいるが、指まわりには余裕がある。締め付けではなく「支えている」状態だ。
3. 踵の安定が、歩行全体に影響する
歩くという動作は、踵から着地して、つま先で蹴り出す。この一連の流れの中で、踵が靴の中でぐらついていると、着地のたびに微細なエネルギーロスが起きる。100歩、1000歩と歩くうちに、そのロスが積み重なっていく。
「柔らかくて楽な靴」は、静止しているときに一番いい靴だ。
でも歩くという行為は、静止の連続ではない。体重移動、着地、蹴り出し、そのすべてにおいて、足と靴が「共同作業」をしている。そこにズレがあると、身体はその都度余計な力を使わなければならない。
履きやすさと歩きやすさは、実は少し違う概念ではないだろうか。
履いた瞬間に「楽だ」と感じる靴が、歩いた後も楽とは限らない。逆に、最初は少し「しっかりしているな」と感じる靴が、長距離を歩いた後も意外と疲れていない、ということはよくある。
靴を選ぶときに、一度試してみてほしいことがある。
試し履きをしたまま、店内を10歩ほど歩いてみる。そのとき、足の裏が靴にしっかり乗っている感じがするか。踵が、靴の内側でずれていないか。靴紐で足の甲を締め付けすぎていないか。この3点を確かめるだけで、選択が変わることがある。
「足に優しい靴」と「足を支える靴」は、似ているようで少し違う。どちらが良い悪いではなく、何をするための靴かによって、選ぶ基準が変わってくるのだ。
僕自身、今は歩くことを目的とした日には、スニーカータイプを選ぶようにしている。メッシュタイプは、ちょっとした買い物や短距離の移動のとき。用途で使い分けるようになってから、歩いた後の身体の重さが変わった気がしている。
靴一枚で、歩くことがずいぶん変わる。そんな小さな発見が、身体との対話の入り口になるのかもしれない。